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腎と脂質研究会 代表世話人挨拶

腎と脂質研究会
代表世話人鶴屋 和彦
(奈良県立医科大学腎臓内科学)

「腎と脂質研究会」は、杉野信博先生(当時:東京女子医科大学教授)、酒井聡一先生(当時:東京慈恵会医科大学教授)をはじめとする先達の先生方により1988年にスタートし、その後、斉藤喬雄先生(当時:福岡大学教授)が引き継がれ、2014年4月より湯澤由紀夫先生(当時:藤田医科大学教授)が代表世話人として牽引されてきました。2022年4月より私が代表世話人を拝命し、務めさせていただくこととなりました。伝統ある本研究会の代表世話人となることは大変光栄なことではございますが、浅学非才を顧みまして責任の重さを痛感しております。微力ではございますが、本研究会がより一層発展できますよう、できうる限り努めて参る所存です。

 近年の高齢化に伴って腎硬化症による慢性腎臓病(CKD)患者が増加し、2021年末の調査では、透析導入患者の原疾患として腎硬化症が全体の18.2%を占め、2019年末より慢性糸球体腎炎を抜いて第二位となっています。今後、さらに増加すると予想されますので、CKD対策における動脈硬化症対策の重要性はさらに高まり、脂質管理の重要性も増していくものと思われます。

 最近の腎と脂質に関するトピックとしては、以下の二つが挙げられます。一つは、動脈硬化症におけるCKDおよび高トリグリセリド(TG)血症に関する話題です。2022年に動脈硬化性疾患予防ガイドラインが改訂され、CKDのリスク管理について新たに項目が追加され、CKD患者における早期からの積極的な脂質低下療法が推奨されました。また、新たな脂質異常症診断基準として、空腹時TG150mg/dL以上に、非空腹時TG175mg/dL以上が追加されました。従来、CKD患者における高TG血症の薬物治療において、TG低下作用の強いフィブラート系薬剤の投与は、その多くが腎排泄性であることから積極的には行われてきませんでしたが、近年、胆汁排泄型のベマフィブラートが使用可能となり、最近、高度腎機能障害例が禁忌から外れたため、CKD患者におけるTG低下療法が行いやすくなりました。しかしながら、その心血管イベント抑制効果については大規模臨床試験のPROMINENT試験で証明されず、十分なスタチン治療下でのTG低下療法の意義は認められませんでした。

 一方、もう一つのトピックは、先進医療として行われてきた「難治性高コレステロール血症に伴う重度尿蛋白を呈する糖尿病性腎症に対するLDLアフェレシス療法」の有効性が評価され、2022年の診療報酬改訂で保険適用として承認されたことが挙げられます。糖尿病性腎症は、四半世紀前より末期腎不全の原疾患の第一位を占め、最近、SGLT2阻害薬やミネラルコルチコイド受容体拮抗薬など新たな治療薬の予後改善効果が示されているとはいえ、根治的な治療法がなく、進行を阻止するのが極めて困難な疾患です。この難病に対してLDLアフェレス療法が保険適用化されたことは、わが国のCKD対策において非常に意義深いことと思われます。

 このように、CKD患者に対する脂質低下療法の重要性は明らかに高まってきていますが、腎と脂質の関連性についてはまだ不明なところが多く、さらなる議論が必要と思われます。本研究会が、腎と脂質の診療および研究に携わる方々において貴重な議論の場となり、今後の臨床に少しでも貢献できる会となれば幸いに存じます。

事 務 局
奈良県立医科大学 腎臓内科学
〒634-8521奈良県橿原市四条町840番地
電話0744-22-3051(代表)/ファックス0744-23-9913